top of page
  • 執筆者の写真halfmoonjourney 小川

「どういう印象で見せるか?」というやり方。それがデザインだと思うの。



デザイン制作において基本と呼ばれるやり方がたくさんあります。文字は読みやすい大きさで本文はこのくらいのサイズとか、色が与えるイメージとか、目立たせたい物は大きく視線誘導で左上からがいいとか、まぁデザイン学生1年生が習う感じの基礎理論ですね。最近、この手の話が嫌いです。


「家で隙間時間にデザイナーで稼ぐ」的なキャッチコピーでスクールに誘う団体とか、「デザインの添削」みたいな事を謳う団体とか、そういう方達がSNSでたくさん増えて、そこから卒業した初心者レベルのデザイナーがたくさん出てきたからかもしれませんが、とにかく「もうそんな基礎的な話でオレのデザインを潰さないでくれ。」と最近は食傷気味です。(決してそういった団体を非難しているわけではないです。みんな仕事をして生きているので。100%の肯定は難しいですが自分の技能を使って仕事を生み出しているので否定もしません。)



食傷気味の理由は前述した通りあくまで「基礎理論」だからです。

昔から習い事の段階の説明に守破離とありますが、基礎理論は「守」。初心者デザイナーやデザイナーでない方はぜひ守っていただきたいのですが、中級くらいからは「守」から「破」や「離」に移行した方がデザインが発展すると考えています。僕がデザインで基礎理論を知っててもあえて違う方向に行っているのは「破」や「離」が基本になっているからです。


僕が若い頃に好きだった大デザイナーの方の文字に関するインタビューで読んだことがあるのですが、その方は文字が読みにくいと記者に突っ込まれた際に「文字は読みやすさよりも、対象読者の気を惹くデザインになることを優先している」という話をしていました。なぜ「気を惹く」ことが優先なのかというと「だって興味があれば読みにくくても読むでしょ?」と答えていました。当時は「だいぶアバンギャルドな考え方で、読みにくいのはダメじゃないか?」と思ってましたが、一時期から僕も気を惹くことを優先するようになりました。そこに「文字を読ませる」という行為があると思ったからです。


「文字を読む」という行為は一見「日本語が読める人へ文章を介して何かを伝える」という行為ですが、これだけでは「読みやすさ」にはならないと考えています。重大な点として「人は興味がないものは読まない」という人間の気持ちを見落としています。


例えばデザイン現場の修正としてよくある「文字を大きくして」ですが、本当に文字が大きければみんなが文字を読むのであれば街中のドン・キホーテやパチンコ店の大きくて派手な文字は100%通行人が読むはず。駅貼りのポスターもそうでしょう。しかし実態はほとんど素通りしています。そう、文字が大きければ読むわけではないのです。人間「読みたいものを読む」のです。この気持ちの部分を「文字の大きさ」以外のファクターとしてデザインに組み込まないと「可読率が高い」とはなりません。だから僕は文字サイズと興味を持ってもらえそうなビジュアル、読む方の年齢を加味して文字の大きさを決めています。(注:紙媒体の場合の説明です)



視線誘導は左上から。大きな物から見る。それって本当?

レイアウトだって同じです。よくデザイン系学校の授業で「視線は左上から右下へ動く。大きな物から順番に見る。」と言われます。こちらも基礎なので重要ではあるのですが、それだけじゃ困るんです。例えば「視線誘導で1番優先度の低い右下に1番大きな物が来たらどこから見るの?」とか、「大きさはすごく小さいけれどそこだけカラーで丸がある。それ以外はモノクロ。」といったいろんな要素が重なった場合は説明として不十分になります。そしてデザインというのはほとんどの場合、いろんな要素が複雑に重なって構成されています。


だからデザイナーはひとつひとつのバランスを計算して、伝えたいことが1番伝わるであろう形で配置/配色/構成を決めています。そうなると「小さいけどよく見える」とか「大きいけど気にならない」といった基礎とは違った作り方も頻繁に出てきます。視線誘導の強弱、配色の強弱、オブジェクトの大小の強弱、それらひとつずつを計算して全体で「何を見せたいか」を伝えています。



最初に戻って基礎理論が最近嫌いな話

戻ります。僕も上記のようにあれこれ考えながらデザインを作っているのですが、SNSなんかで初心者デザイナーレベルと思われる方やちょっとデザインをかじった方がこの基礎理論で他人のデザインを「文字の大きさが小さいからダメ」とか「視線誘導ができてない」とかマウントを取る機会を目にするようになりました。基礎理論はとても大事なのですが、嫌な感じで使われるのを見ることで食傷気味になっているのだと思います。

基礎はすごく大事なので初心者の方もまずは勉強しては欲しいのですが、基礎だからこそ「違うよ」と言えない部分もあり、マウントを取るには絶好の言説でもあります(水戸黄門の印籠みたいな)。個人的にはそういうことじゃなくてもっと人に優しくできんかねとも思いますし、前述した通りあくまで「基礎」なので、その先に行けるようマウント取るより努力が先じゃないとも思っているわけです。


そんな中、せっかく計算した文字の大きさや全体のレイアウトに関して基礎理論ひとつだけ持ってきて「文字サイズが小さい。人間の読みやすいサイズは~」とか「視線誘導ができてない。順番があって~」とか言われても困るのです。こっちはそれ全部知って計算した結果無視することにしたんだから。何か言いたいならばせめてもうちょっと突っ込んだレベルの話にしてくれよとも思うのですが、こういった話も伝わらずモヤモヤすることもしばしばです。

閲覧数:0回0件のコメント

Comentários


bottom of page